ネットのモグラ

日陰でいろいろつぶやくブログです。自分の創作資料置き場も兼ねてます。

市街戦の要領②

今度は陸自の人の論文から。ただ、1980年の論文のため、今とは大きく異なる部分もあると思います。

これもあとで統合したいと思います。

 

我が国の都市の特徴

三大都市圏(東京・名古屋・大阪)は国土の10%を占めるが、そこには人口の45%が住んでおり、産業の集積率も高い。

・水道は国民の90%が利用し、都市ガス・プロパンガスは家庭用燃料の30%が利用している(1977年時点)

・都市の分布と地形区画は、都市は平地部に存在し、都市圏の広がりは山地等によって区画されている地域とおおむね一致。都市は当該平地の政治・経済・文教・交通等の中心

・ヨーロッパの都市に比べて建物の立体度が低く、道路、公園、広場などの空き地の割合が少ない。中高層建造物は都心や郊外住宅などに見られるが、住宅地の大部分はだいたい低層建造物で閉められ、地下構造物はきわめて少ない。我が国の都市において特異なのは電柱と横断歩道橋が存在すること。

・最近(注 1980年)では都市の不燃化が進み、コンクリオート作りの永久建築物が増加しつつあるが、木造建築の比率は依然として高い。(昭和52年の着工住宅のうち、木造は建物全体の75%)なお、1968年の三大都市圏の木造建造物率は90%

 

都市化が防衛に及ぼす影響

・都市は交通・通信・水・エネルギー等高度に自動化・機械化されたシステムの稼働が必要だが、これらのシステムはサボタージュやゲリラによる破壊活動に対して極めて脆弱。極めて小規模な破壊により混乱が増幅し、パニックを都市全体に広げ、収拾のつかない事態を招く。国家意思が市民の意思の集合である自由主義社会において、都市が有する脆弱性は戦略的な目標になりうる。

・狭い国土の平地部に人口と産業施設が集中し、それは全国的に見ると三大都市圏に偏在している。これは国力がこの地域に集中していることを意味しており、この地域の破壊と喪失は我が国にとって致命的である。しかも、これらは大陸に基地を有する航空機やミサイルの範囲内にある。

・欧米都市に比べ、木造建築の比率が高い我が国は、焼夷、破壊に対して脆弱で、空き地が少ないことも相まって被害を拡大させる。

・戦力的に価値の大きい地域を短期間に占領し、政治交渉を有利に導く、あるいは既成事実として戦争目的を達成するという場合(限定侵攻)の場合、我が国の地方都市は区画された地域の象徴的存在であり、都市の産業・交通施設等の戦略的価値を考えると、限定進行時の目標として価値は高い。

・港湾のほとんどにはその背後に港湾の規模に比例する大きさの都市を背後に有し、都市を占領しなければ港湾の使用は困難。空港は都市の郊外に位置し、空港で発着する航空機の脅威をなくすには、都市を含む一帯の占領が必要。このため、港湾や空港の争奪のため、都市の目標価値は高い。

・地上からの攻撃は道路沿いに発達している市街地や道路の集約点としての都市を通らなければならない。

・第二次大戦の日本本土決戦準備においても、当初は九州の住民は戦闘になる前に事前に疎開するよう計画されていたが、現地軍は、施設・食料・輸送等の手配を検討した結果、疎開させることが不可能だったため、疎開計画を廃止し、住民は最後まで軍とともに戦場にとどまり、弾が飛んでくれば一時戦場内で退避することにした。

軍の統制力が強い当時であっても、住民の安全確保は難しい。

 

都市化への戦略・戦術

重要なことは以下の三つ

①国家の中枢たる都市圏への攻撃を阻止

②主要都市の占領を回避

③市街戦に備える

着上陸する敵の侵攻を阻止できず、港湾・空港都市が敵手に渡れば、戦力の増強を許し、そのまま戦争終結にもつながりかねない。

これに対するには、①情報収集に努め、要点に部隊を配置することで、奇襲上陸を防ぐ。②長距離火力や敵のミサイルからの防護などによって、迅速な戦力集中を行う。

③敵が脆弱な洋上・海上のうちに敵を撃破するための火力の充実。

また、市街戦に備えるには、以下の方策が必要

①建築物の構造・高さ・屋上の状況・地下構造物等を明らかにするほか、都市の立体的な景観を表す地図(注 今なら3D等)の都市地誌を整備する。

②各種火器の市街地での有効性を検証する。近代的な兵器ほど市街戦では役に立たないと言われており、例えば対戦車兵器もヘリにでも積まない限り市街地では有効ではない(注 これは他の市街戦マニュアルとは異なるところ。時代のせいか?)

③人工物の対砲弾性の実証

市街戦では防衛側が有利といわれているが、これは占領した建物の強度によるところが大きい。したがって、主力戦車の射撃に耐えられるかどうかが陣地占領の考慮要件になる。

なお、ソ連軍の市街戦に対する考え方としては

①ヨーロッパの現状を踏まえて市街戦を重視しているものの、攻撃に際しては市街地はできるだけ迂回するべきと考えている。

②攻撃する場合は市街地への無停止攻撃か、市街地を包囲した後に攻撃するかのいずれか。

③攻撃部隊の編成としては自動車狙撃1個中隊、直接照準射撃砲兵1個中隊、1個~2個戦車小隊、戦闘工兵1個小隊、化学班、火炎放射器班等で構成

④市街地における核、化学兵器の使用を重視。

 

元ネタ 陸戦研究 1980年11月号 堀川正照「都市化の影響とその対応について」